「お客様の夢・やりたいことを叶える」
M様の夢「釣りに行くこと」
M様、81歳。
脳梗塞による左半身麻痺で在宅での生活が困難になったため「ジャストイン諫早」に入居。
73歳まで外洋船で船員のための料理をつくる仕事をしていた生粋の海の男。
M様の夢。それは「釣りに行くこと」
脳梗塞の後遺症で左半身が麻痺だったこともあり、リールを巻くことはおろか、釣竿を持ち続けることも困難であり、本人も大好きな釣りを諦めていた。
そこで私は「どうしてもM様を釣りに連れていきたい!」と思い、実行を決心。
しかし、左半身が麻痺ということ以外にも課題は山積みだった。
緊急時の対応、車椅子でも魚釣りが出来て、安全かつ短時間で釣りができる場所。
そして、8月の猛暑の中での釣りをどのように成立させるか?
トイレの場所など・・・。
しかし、そんなことを言っていたら、いつまでたっても夢は叶わない。
M様の夢を叶えたい一心で全ての課題をスタッフと一緒に解決していった。
まずは釣り場を探した。
いくつかの場所を下見し、環境面や安全性を考慮し、飯盛町の江の浦に決定。
車椅子用のトイレも近くにあり、足場も防波堤の為、安全性も高い。
ただし、朝8時を過ぎると気温が30度を超える為、釣りの開始時間を日の出の5時30分に設定。
緊急時の対応として、主治医にあらかじめ連絡を行い、受け入れて頂く許可を頂いた。
左半身が言う事を聞かないため、片手でも操作が出来るように、釣竿は塩ビ管を使い、車椅子に座ったまま操作が出来る仕様が望ましい。
これらの要件を整理し、魚が食いついた時の「アタリ」に合わせリールが片手でも巻けるシステムを考案した。
唯一、釣り竿を投げる動作だけはスタッフが行うことにした。
もちろん、どの辺に投げれば良いかはM様のご指導に従って行うため、スタッフとの二人三脚!
本人からも了承を頂き、いよいよ8月23日の朝4時30分に出発することで決定。
いよいよ当日。
ご本人曰く「一睡も出来なかった」との事で、やはり数年ぶりの海に期待が膨らんでいたのだろう。
私も期待と不安で眠れなかったのだから、M様はもっとエキサイティングだっただろうと思う。
しかし、私が訪室した時はきっちり寝ておられました(笑)
3時30分の起床はスムーズで「早く連れて行ってくれ」と意気揚々。
4時30分に出発してコンビニで大好きなサンドイッチを購入し「これを海で食べたら美味かとよ」と笑顔。
体調も万全でいざ海へ!
海に到着してからいよいよ釣りが開始した。
するとすぐに一投目から反応が!
竿が曲がり、生命感に溢れている!
そして、M様も一生懸命リールを巻く。
決して器用ではない。
昔のようにスムーズでもなかっただろう。
でも、ゆっくりと、確実に、何かを噛みしめるように・・・
私は「この方は本当に海の男だったんだな」と思いながら見守っていた。
すると・・・
なんと鯛が釣れた!(小さかったけど…)
釣りができたことに対する実感が湧いたのか、今までに見たことのない最高の笑顔が弾けていた。
M様が釣りたかった魚は大型の鯛。
サイズは全然違ったけど、夢の第一歩が目標としていた鯛だったのには何かの縁を感じた。
「こんな小さな鯛じゃ話にならん!!」
そう語るM様には見たことも無い笑顔がはじけていた!
それからはリールの巻き上げや魚の当たりに合わせる動作もスムーズで、キスが数匹釣れた。
しかし、最初の一匹目こそ笑顔だったが、二匹目からは「まだまだ足らん、これじゃない」と悔しそうに話されていた。
M様の本当の夢は「船に乗って大きな鯛をつること」
もちろん満足するはずがない。
今回はあくまでも練習であり、今後もその為にリハビリを行うとスタッフに誓っていた。
M様の夢はまだ始まったばかり・・・
記・山本竜馬